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横浜地方裁判所 平成6年(ワ)779号 判決 1998年2月05日

主文

一  本件訴えを却下する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一  当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告は、原告に対し、別紙物件目録記載の建物を明け渡せ。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

二  請求の趣旨に対する答弁

1  本案前の申立て

主文同旨

2  本案の答弁

(一) 原告の請求を棄却する。

(二) 訴訟費用は原告の負担とする。

第二  当事者の主張

一  本案前の主張

1  被告の主張

(一) 法律上の争訟性の不存在

本件における本案の請求権は、原告の別紙物件目録記載の建物(本件建物という。)の所有権に基づく本件建物の明渡し請求権であるところ、原告が本件建物を所有していることと被告がこれを占有していること(請求原因(一)、(二)の事実)及び被告が昭和41年4月27日当時の日蓮正宗の管長であった細井日達(細井という。)により原告寺院の住職に選任されると同時に原告の代表役員に就任して本件建物の占有権原を取得したこと(抗弁事実)は、後記摘示のとおり当事者に争いがない。しかして、原告は、被告の右占有権原の喪失原因として、被告が平成5年10月15日日蓮正宗管長阿部日顕(阿部という。)により原告寺院の住職を罷免されると同時に原告の代表役員たる地位も失って本件建物の占有権原を喪失したこと(再抗弁事実)を主張し、被告が阿部の日蓮正宗管長としての地位を争い、右主張を否認していることも、後記事実摘示のとおりである。したがって、本件訴訟においては、阿部が行った被告に対する原告寺院の住職罷免処分によって、被告が原告寺院の住職たる地位ひいては本件建物の占有権原を喪失したか否か、すなわち、住職罷免処分の効力の有無が本件建物の明渡しを求める原告の請求の当否を決する前提問題となっている。

ところで、住職の任免権限を有している者は、日蓮正宗の管長であり(日蓮正宗宗規〔宗規という。〕15条6号、7号、172条、244条4号)、管長は法主の職にある者が充てられる(宗規13条2項)。そこで、住職罷免処分の効力を判断するについては、被告に対する住職罷免処分を行った阿部が、住職罷免処分の権限を有する日蓮正宗の法主・管長の地位にあるか否かが問題となるところ、宗規14条2項にいう法主の選定とは、伝統的に当代法主が次期法主に血脈相承を授けることを意味し、右行為は本仏たる宗祖の内証(仏が悟った宇宙の根源の法理)を代々継承する宗教行為であって日蓮正宗の教義、信仰と深くかかわっているため、右教義、信仰の内容に立ち入ることなくしては住職罷免処分の効力を判断することができないから、本件訴訟は、法令の適用による終局的解決に適しないものとして、裁判所法3条にいう「法律上の争訟」に該当しない。

また、被告は、被告が原告の代表役員以外の責任役員(総代という。)を解任した上、後任の総代とともに大経寺規則(規則という。)を変更した行為につき「日蓮正宗の法規に違反し、訓戒を受けても改めなかった」(宗規247条9号)として住職を罷免されたが、被告には法規違反の事実はなく、仮に被告の行為が宗規247条9号に該当するとしても、その行為は日蓮正宗の教義、信仰(本尊観、本仏観、三宝観、僧俗観)に基づくものであるから、日蓮正宗の教義、信仰の内容に立ち入ることなくしては住職罷免処分事由の存否、ひいては右処分の効力を判断することができない。したがって、この点においても、本件訴訟は裁判所法3条にいう「法律上の争訟」に該当しない。

(二) 原告代表役員を称する梅屋誠岳の代表権限の不存在

阿部は、先代法主である細井から血脈相承を授けられておらず、宗規14条2項による法主の選定を受けた者ではない。よって、阿部は、日蓮正宗の法主・管長ではなく、被告に対する懲戒処分権限がないから、被告に対する住職罷免処分は無効である。他方、法主・管長でない阿部には住職の任命権もないから、同人に任命されたとして原告寺院の住職を称する梅屋誠岳は、原告の住職でも代表役員でもない。したがって、本件訴訟は代表権なき者が代表者と称してなした訴訟であり、却下を免れない。

また、宗教法人法78条1項は、宗教団体はその包括宗教法人との被包括関係の廃止を防ぐことを目的として、又はこれを企てたことを理由として、当該宗教法人の代表役員等に対し、解任等の不利益の取扱をしてはならないと規定し、同条2項は、右規定に反してした行為は無効とすると規定しているが、被告は原告寺院の日蓮正宗からの離脱を企て、平成4年10月17日開催の原告寺院の責任役員会において、日蓮正宗との被包括関係を廃止する決議をし、併せてこれに必要な規則変更の決議をしたところ、阿部から住職罷免処分を受けたのであるから、右住職罷免処分は明らかに被告の被包括関係の廃止を妨害するためにとられた意図的な措置であり、宗教法人法78条1項の規定する「不利益な取扱」に該当し、同条2項により無効である。したがって、被告は原告の住職としての地位を喪失しておらず、被告が右地位を喪失したことを前提としてなされた日蓮正宗の梅屋の住職任命行為は無効であり、梅屋の代表役員就任登記もまた無効である。よって、本件訴訟は代表権なき者が代表者と称してなした訴訟であり、却下を免れない。

2  原告の答弁

(一) 法律上の争訟性の不存在の主張について

阿部が日蓮正宗の法主・管長として被告に対する懲戒権限を有していたか否かについては、日蓮正宗内で自律的に確定した結果を尊重すべきである。すなわち、部分社会をなす自治団体に対する自律的結果尊重の法理は、最高裁判所の確定した判例であるところ、宗教団体は憲法上、宗教活動について国の干渉からの自由を保障されており、右法理は宗教団体にも妥当する。ところで、日蓮正宗の前管長であった細井が死亡した昭和54年7月22日、総本山において開催された緊急重役会議の席上、阿部は先に細井から血脈相承を授けられたことを発表し、同日行われた細井の通夜の席上、阿部の法主就任が宗内に公表され、同年8月6日、総本山大石寺において、宗内僧俗の代表が参加して阿部の法主就任の儀式である「御座替式」が行われ、引き続き、宗内の主だった僧侶と信者の代表とが参加して、阿部の当座を祝うとともに同人との師弟の契りを固める「御盃の儀」が執り行われた。同年8月21日、阿部は、法主・管長の就任に当たり、細井から血脈相承を授けられ、同年7月22日、日蓮正宗管長の職に就いた旨の訓諭を発した。さらに、昭和55年4月6日及び7日、総本山大石寺において、「御代替奉告法要」が行われ、阿部の法主就任が宗内に披露された。日蓮正宗の能化(権僧正以上の僧階にある者)全員は、昭和57年1月19日、阿部が第66世法主細井から血脈相承を受けた唯一人の正当な日蓮正宗第67世法主であることを確認し、これに異を唱える者を邪義・異端の徒であると糾弾して今日に至っており、日蓮正宗の宗会議員もまた、同月22日、能化による声明と同趣旨の決議をなし、一部の者を除く全教師僧侶も、同年4月下旬、各布教区ごとに右と同趣旨の決議をしている。

このように、阿部は、血脈相承を受けて昭和54年7月22日に日蓮正宗の第67世法主に就任して以来、今日に至るまで、法主・管長としての職務を広範に行ってきており、宗内の僧俗はこれに異を唱えず、信奉してきているのであるから、阿部が法主・管長の地位にあることは既に日蓮正宗内において確定した事実である。したがって、阿部が日蓮正宗の法主・管長として被告に対する懲戒権限を有していたか否かについては、日蓮正宗内で自律的に確定した右結果を尊重すべきである。被告も、長年にわたって阿部が日蓮正宗の法主・管長の地位にあることを認めてきたにもかかわらず、原告寺院の住職を罷免されるや、突如右処分の効力を争うためにのみ、阿部の法主・管長の地位を否認する主張を行ったことは、極めて不合理な矛盾挙動として信義則に反し、許されない。

また、被告の、懲戒処分事由の有無については、被告は、日蓮正宗の宗規に違反して日蓮正宗の代表役員の承認を受けずに原告寺院の総代を解任し、その点について日蓮正宗宗務院から訓戒を受けたにもかかわらず改めなかったために住職罷免処分に付されたのであるから、日蓮正宗の管長の承認の有無という形式的な法規違反の事実を判断すればよく、何ら日蓮正宗の教義、信仰と関係なく審判できるものである。

(二) 原告代表役員を称する梅屋の代表権限の不存在の主張について

阿部は、昭和54年7月22日、前記(一)のとおり、所定の選定手続を経て日蓮正宗の管長に就任した。被告は、平成4年10月17日、原告寺院の総代である横尾ら3名を解任したが、横尾らには解任事由は存在せず、解任につき日蓮正宗の代表役員の承認もなされていない(宗規236条3項、規則35条)から、右解任は無効である。日蓮正宗は、被告に対し、被告が原告の総代を一方的に解任した行為についてただすため、4回にわたって日蓮正宗宗務院に出頭するよう召喚したが、被告は、いずれの召喚に対しても正当の理由なく指定された期日に出頭しなかった。そこで、日蓮正宗宗務院総監は、被告に対し、平成5年9月24日付けで書面をもって、総代解任行為及び後任総代の選定、規則変更行為を白紙撤回し、その非違を改めるよう訓戒したが、被告は右訓戒に従わなかった。被告は、平成5年10月15日、日蓮正宗管長の阿部によって原告寺院の住職を罷免されてその地位を喪失するとともに、原告の代表役員たる地位も喪失し、右同日、梅屋は、阿部によって原告寺院の住職に任命されてこれに就任するとともに、原告の代表役員に就任した。したがって、現在、梅屋が原告寺院の住職であり、原告の代表役員である。

また、日蓮正宗が被告を住職罷免処分にしたのは、右に述べたとおり被告が日蓮正宗からの離脱を企てたからではないから、被告に対する住職罷免処分が宗教法人法78条1項に違反し、同条2項により無効であるとの主張は理由がない。

二  本案についての主張

1  請求原因

(一) 原告は、本件建物を所有している。

(二) 被告は、本件建物を占有している。

(三) よって、原告は、被告に対し、所有権に基づき本件建物を明け渡すことを求める。

2  請求原因に対する答弁

請求原因(一)及び(二)の各事実は認める。

3  抗弁(占有権原)

被告は、昭和41年4月27日、当時の日蓮正宗の管長であった細井により原告寺院の住職に選任され、規則の定めによって同時に原告の代表役員に就任し、本件建物の占有権原を取得した。

4  抗弁に対する認否

認める。

5  再抗弁(占有権原喪失)

前記一の2の(二)記載のとおり、被告は、平成5年10月15日、日蓮正宗管長の阿部によって原告寺院の住職を罷免されたから、原告寺院の住職でなくなり、したがって原告の代表役員たる地位も失って、本件建物の占有権原を喪失した。

6  再抗弁に対する認否

否認する。前記一の1の(二)記載のとおり、被告に対する住職罷免処分を行った阿部は、先代法主である細井から宗規14条2項による法主の選定を受けておらず、したがって、日蓮正宗の法主・管長ではないから、被告に対する懲戒処分権限を有していない。また、被告には、懲戒処分事由がない。

第三  証拠

証拠の関係は、本件訴訟記録中の書証目録記載のとおりであるから、これをここに引用する。

理由

一  先ず、被告の本案前の主張について判断するに、<証拠略>によれば、次の各事実が認められる。

1  原告は、日蓮正宗宗制に定める宗祖日蓮所顕十界互具の大曼陀羅を本尊として日蓮正宗の教義をひろめ、儀式行事を行い、広宣流布のため信者を教化育成し、その他正法興隆、衆生済度の浄業に精進するための業務及び事業を行うことを目的とする宗教法人であり、日蓮正宗は、原告の包括宗教法人である。

2  原告は、本件建物を所有している。

3  被告は、昭和41年4月27日、当時の日蓮正宗の管長であった細井により原告寺院の住職に選任され、その後昭和51年7月26日、原告が宗教法人として成立するのと同時に、「代表役員は、日蓮正宗の規程によって、この寺院の住職の職にある者をもって充てる。」との規則8条1項の定めによって原告の代表役員に就任し、本件建物の占有権原を取得した。被告は、原告寺院の住職として赴任して以来、本件建物を占有している。

4  日蓮正宗の前管長細井は、昭和54年7月22日死亡した。同日、総本山において開催された緊急重役会議の席上、阿部が昭和53年4月15日に総本山大奥において細井から血脈相承を授けられたことを発表し、昭和54年7月22日行われた細井の通夜の席上、緊急重役会議に出席した椎名重役から右の次第が述べられ、阿部の法主就任が宗内に公表された。また、同日付け及び翌日付け達示をもって、阿部の法主・管長への就任が宗内に通達された。同年8月6日、総本山大石寺において、宗内僧俗の代表が参加して阿部の法主就任の儀式である「御座替式」が行われ、引き続き、宗内の主だった僧侶と信者の代表とが参加して、阿部の当座を祝うとともに同人との師弟の契りを固める「御盃の儀」が執り行われた。同月21日、阿部は、法主・管長の就任に当たり、細井から血脈相承を受け、同年7月22日、日蓮正宗管長の職に就いた旨の訓諭を発した。さらに、昭和55年4月6日及び7日、総本山大石寺において、「御代替奉告法要」が行われ、阿部の法主就任が宗内に披露された。

なお、阿部の日蓮正宗の代表役員就任の登記は、昭和54年8月16日になされている。

5  被告は、平成4年10月17日、原告寺院の総代(責任役員)である横尾島吉、波多野俊久及び齊藤幸男を解任するとともに、今野成俊、佐藤義雄及び高梨幹哉を総代に選任した。宗規236条3項は「総代が犯罪その他不良の行為があったときは、住職または主管は、この法人の代表役員の承認を受けて、直ちにこれを解任する。」と規定し、規則8条3項は「代表役員以外の責任役員は、日蓮正宗の代表役員の承認を受けなければならない。」と規定しているが、被告による横尾ら3名の解任につき、日蓮正宗の代表役員の承認はなかった。被告は、そのころ、今野ら3名とともに責任役員会を開催し、原告寺院と日蓮正宗との間の被包括関係を廃止する決議をし、これに併せて必要となる規則変更の決議を行った。

6  日蓮正宗宗務院は、被告に対し、被告が横尾ら3名を原告寺院の総代から解任したことに関し、4回にわたり期日を指定して日蓮正宗宗務院に出頭するよう召喚したが、被告は指定された期日に出頭しなかった。

また、日蓮正宗宗務院総監藤本日潤は、被告に対し、平成5年9月24日付けの「訓戒」と題する内容証明郵便をもって、同年10月8日までに、被告の行った総代の解任行為、後任の総代の選任行為及び規則の変更行為について白紙撤回し、その非違を改めるよう訓戒するとともに、右訓戒に従ったことを証明する書面等を総監宛に提出するよう命じたが、被告は右訓戒に従わなかった。

宗規は、247条において「左に掲げる各号の1に該当する者は、その情状に応じて、罷免、奪階又は擯斥に処する。…九 本宗の法規に違反し、訓戒を受けても改めない者。」と規定している。阿部は、日蓮正宗の管長として平成5年10月15日付けの「宣告書」と題する書面をもって、被告に対し、被告の行為が右規定に該当するとして、原告寺院の住職を罷免する旨通知した。

7  原告の法人登記簿には、梅屋が平成5年10月15日付けで原告の代表役員に就任した旨の登記がなされている。

8  日蓮正宗において被包括宗教法人の住職の任命権限を有している者は、管長であり(宗規15条6号、7号、172条、244条4号)、管長は法主の職にある者が充てられる(宗規13条2項)。宗規14条は、1項において「法主は、宗祖以来の唯授一人の血脈を相承し、本尊を書写し、日号、上人号、院号、阿闍梨号を授与する。」と規定し、2項において「法主は、必要を認めたときは、能化のうちから次期の法主を選定することができる。但し、緊急やむを得ない場合は、大僧都のうちから選定することもできる。」と規定しているが、日蓮正宗における法主の選任手続は、伝統的に「血脈相承」という宗教的行為によって行われ、血脈相承を授けられた者が当代法主の死亡又は退職によって次期法主に就任してきたことから、同条2項にいう「選定」とは、当代法主が次期法主に血脈相承を授けることを指すものと解されている。

二  ところで、裁判所がその固有の権限に基づいて審判することができる対象は、裁判所法3条にいう「法律上の争訟」、すなわち当事者間の具体的な権利義務ないし法律関係の存否に関する紛争であって、かつ、それが法令の適用により終局的に解決することができるものに限られる(最高裁判所昭和41年2月8日第三小法廷判決・民集20巻2号196頁参照)。したがって、当事者間の具体的な権利義務ないし法律関係に関する紛争であっても、法令の適用による終局的解決に適しないものは、裁判所の審判の対象となりえないというべきである。

宗教団体における宗教上の教義、信仰に関する事項については、憲法上国の干渉からの自由が保障されているのであるから、これらの事項については、裁判所はその自由に介入すべきでなく、一切の審判権を有しないとともに、これらの事項にかかわる紛議については厳に中立を保つべきであることは、憲法20条のほか、宗教法人法1条2項、85条の規定の趣旨に鑑み明らかなところである。したがって、当事者間の具体的な権利義務ないし法律関係に関する紛争であっても、宗教団体内部においてされた懲戒処分の効力が請求の当否を決する前提問題となっており、その効力の有無が当事者間の紛争の本質的争点をなすとともに、それが宗教上の教義、信仰の内容に深くかかわっているため、右教義、信仰の内容に立ち入ることなくしてその効力の有無を判断することができず、しかも、その判断が訴訟の帰趨を左右する必要不可欠のものである場合には、右訴訟は、その実質において法令の適用による終局的解決に適しないものとして、裁判所法3条にいう「法律上の争訟」に当たらないというべきである(最高裁判所昭和56年4月7日第三小法廷判決・民集35巻3号443頁、最高裁判所平成元年9月8日第二小法廷判決・民集43巻8号889頁、最高裁判所平成5年9月7日第三小法廷判決・民集47巻7号4667頁、最高裁判所平成5年11月25日第一小法廷判決・判例時報1503号3頁各参照)。

これを本件についてみるに、被告が本件建物の占有権原を有しているか否かは、被告が原告寺院の住職を罷免されたか否かに関わるところ、日蓮正宗の被包括宗教法人である寺院の住職の任免権限を有している者は、日蓮正宗の管長であるから、原告の包括宗教法人である日蓮正宗の管長として、被告に対する住職罷免処分を行った阿部が管長の地位を有するか否かが本件紛争の本質的争点をなすが、日蓮正宗の管長は、日蓮正宗の法主の地位にある者をもって充てるものとされている(宗規13条2項)から、本件訴えは、阿部が法主の地位に就任したか否かの判断を必要不可欠の前提とする。しかし、日蓮正宗においては、法主は血脈を相承した者とされている(宗規14条1項)ので、阿部が法主の地位にあるか否かを判断するためには、日蓮正宗における血脈相承の意義を明らかにした上で、同人が血脈を相承したか否かを審理判断しなければならない。そのためには、日蓮正宗における教義ないし信仰の内容に立ち入って審理判断しなければならないことになるから、結局、本件は、その実質において、裁判所法3条にいう「法律上の争訟」に当たらないものというべきである。

したがって、本件訴えは不適法として却下を免れない。

三  よって、主文のとおり判決する。

(別紙)物件目録<略>

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